イノベーション」って?>      宮田 秀典

 

 毎日毎日、新聞を見ていると、どこかに「イノベーション」の文字が躍っている。もう、その定義をしなくてもよい言葉になっているように思われる。このように言い尽くされている言葉であるが、なぜか気になる言葉である。これに因んで、いくつかの話題を拾ってみたい。

 

 「イノベーション」とは、ご存知のように約100年前にオーストリアの経済学者シュンペータが使い始めた言葉である。その対象は、決して技術開発のみではないのだが、日本ではなぜか「技術革新」と訳されることが多い。そこで、先ずは日本発明協会が選定している「戦後日本のイノベーション100選」を紹介したい(*1)。そのトップ10は年代順に、①内視鏡、②インスタントラーメン、③マンガ・アニメ、④新幹線、⑤トヨタ生産方式、⑥ウォークマン、⑦ウォッシュレット、⑧家庭用ゲーム機・同ソフト、⑨発光ダイオード、⑩ハイブリッド車、となっている。筆者にはなじみ深いものばかりで、なるほどという感がある。

 

 これと評価対象・方法が異なるがForbes誌が選んだ2015年の「最も破壊的イノベーションを起こしたブランド10選」では、以下のようなランキングになっている(*2)。①ウーバー、②エア・ビー・アンド・ビー、③フェイスブック、④レッド・ブル、⑤スナップチャット、⑥アリババ、⑦ネットフリックス、⑧アンダー・アーマー、⑨インスタグラム、⑩アップル。良くご存知のように、ウーバーはスマートフォンを使ったタクシー配車サービス、エア・ビー・アンド・ビーは宿泊施設・民泊を斡旋するサービスである。この2つは、いずれも日本では法規制等との関連で話題を呼んでいるものである。この「破壊的イノベーション」では、日本企業のブランドは全く選ばれていない。

 

 国別のランキングでは、コーネル大学、INSEAD仏のビジネススクール)、世界知的所有権機構(WIPOが選んだ「グローバルイノベーションインデックス 2016(*3)がある。ここでは、①スイス、②スウェーデン、③イギリス、④アメリカ、⑤フィンランド、に続いて、⑩ドイツ、⑪韓国、⑯日本、㉕中国、という順位になっている。このランキングでは、政治経済制度、人的資源、インフラストラクチャー、市場の洗練度、ビジネスの洗練度、技術力、クリエーティブなどを複数の項目で各国のイノベーション度をその指標としている。

 

 もう一つの国別ランキングとして、2015年にブルームバーグがIMF、世界銀行、OECD、ユネスコ等のデータから算出した「世界の国別イノベーションランキングトップ50(*4)がある。ここでは、①韓国、②日本、③ドイツ、④フィンランド、⑤イスラエル、⑥アメリカ、⑦スウェーデン、⑧シンガポール、⑨フランス、⑩イギリス、となっている。このランキングでは、研究開発投資、高価値製造、先端企業数、高等教育、研究人材、特許活動の6つの指標が使われている。これらの2つの国別ランキングの結果は、その評価指標が異なるためか、大きく異なる結果となっている。

 

 これらのランキングを見て、読者の皆さんはどのように感じられるだろうか。私自身は、これらのランキングを眺めてみて、改めて「イノベーション」って何だろうという気持ちになっている。日本はイノベーティブな国だろうか、日本企業はイノベーティブなのだろうか。一般的には、その答えを「是」とする人は少ないと思う。

 

 政府は、平成13年(2001)に「総合科学技術会議」を内閣府に設置し、平成26年(2014)にはこの名称を「総合科学技術・イノベーション会議」と変更している(*5)ここでは、継続的にイノベーション創出促進の審議が行われ、これが各省庁の施策となっている。これらの結果が、先述のイノベーションの国別ランキングの評価につながっているものと思われる。その一方、「政府のイノベーション政策はなぜ失敗続きだったか」(日経ビジネスオンライン2015112日)という論評もある(*6)

 

 このように「イノベーション」というのは、一面的に捉えるのは難しく、様々な意味や価値を包含する言葉なのだと思う。いま、改めて「イノベーション」ということを考えてみたいと思う。また、読者の皆様にご意見・コメント等をお願いしたい次第である。

 

 最後になるが、経済産業省の肝いりで作られた「イノベーション100委員会」のレポートが本年2月に公表された(*7)この委員会は「大企業からイノベーションは興らない」という定説に正面から立ち向かっている大企業の経営者で構成されている。その委員会での大命題は「企業にイノベーションを興すのは誰の仕事か?」であり、その答えとして「それは、経営者の仕事である」を明快に謳いあげている。これは判りやすい見解だと思う。

 

 

(*1) http://koueki.jiii.or.jp/innovation100/innovation.php

(*2) http://forbesjapan.com/articles/detail/10437

(*3) https://www.globalinnovationindex.org/

(*4) http://www.bloomberg.com/graphics/2015-innovative-countries/

(*5) http://www8.cao.go.jp/cstp/

(*6) http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/15/100900042/102300002/?P=1

(*7) http://www.meti.go.jp/press/2015/02/20160226002/20160226002.html